loader image
Close
file13

外に出て、違いを知る

合同会社メーデルリーフ代表社員
Sakai Haruko
福島県只見町出身。合同会社メーデルリーフ代表社員。只見線地域コーディネーターとして観光地域づくりに取り組む。

まずは外の世界を知りたい

酒井さんは奥会津の只見町出身。中学校まで只見町で暮らし、3歳から15歳まではほぼ同じメンバーで過ごします。ご自身のもっと人間関係を広げたいという思いから、高校は会津若松市へ。その後関西の大学に進学し、7年間只見町を離れた後、只見町へ戻りました。

——「本当に出たくてしょうがなかったし、かといって、東京に憧れたというわけでもないので、まず外の世界を知りたいって——、それは強かったですよね。」

現在代表社員を務める合同会社メーデルリーフは、只見町を元気にすることがしたいという地域の40代、50代の人が集まった発芽玄米を製造、販売する会社。
——「只見線が復旧するにあたって、再開通してからどんな地域かというのを皆さんに知ってもらうためにはまず、『コミュニケーションのツールとしての商品』があったらいいなということで——、発芽玄米を使ったお菓子であるとか、只見線のグッズなども作りながら、地域の産品も取扱って、皆の商品を発信していける活動をメーデルリーフでは行なっています。」

会津をみんなに
知らせていくことの大事さ

高校生時代、会津若松で只見町の冬の様子や暮らしについても多く聞かれることがあったという酒井さん。関西の大学に進学した際にも同様、学校やアルバイト先で会津のことを聞かれることが多く、その経験が奥会津の魅力を広めたいと思うきっかけに。

——「いままでは福島県の会津って言っても誰も知らないと思ってたけど、そういうことをきちんといろんな方に知らせていくって、とっても大事なことなんだなと、学生時代に学んだ気はします。」

自分たちのやってきたことを伝え、
次世代の活動を応援していく立場へ

大学卒業後に務めた只見町電源流域振興協議会の仕事では、触れるテーマや地域が只奥会津地域全体だったことで、移住者のような新しい目線で故郷を見る機会に恵まれました。

——「小さい頃に見ていた風景とか何気なかったことが、それぞれの只見はこう、金山はこう——、っていう違いが見れて、違う視点から発見というか、驚きがあって。本当に最初の4年間の仕事の時には、ある意味移住者が感じるような新鮮さを味わってたなという気がします。」

そして、結婚や出産を経て、より地域に深く関わる仕事に携わるようになると、地域の古い考え方や地域の常識、しきたりとぶつかることも経験。酒井さんはそんな経験を知識に、これからの20代、30代の次世代の人たちを応援していく立場になりたいと話します。
——「いろんな壁にぶつかると思うんです。そういう時は、私たち少し上の世代の人たちが同じ経験をしているはずですから、同じ思いをさせないように、自分たちがやってきたことをお伝えして——、応援していく立場になっていけたらいいなと思って、頑張っているところです。」

新しく地域に来た方、
先入観のない感性を大事にしていきたい

——「Uターンで良かったなっていう事は、地域の雰囲気や塩梅(あんばい)が分かること。」

酒井さんは、Uターン者として奥会津地域で暮らすことのメリットをこう話す一方で、デメリットもあると言います。

——「逆に先入観があるから、最初の常識というか先入観に囚われて——、先回りして考えてしまうっていうのは、Uターン者の癖ではあるかなと思いますね。——新しく(奥会津に)来てくださった人って何かしら違う事があるので——。その方達から出る言葉っていうのはいい事にしろ悪い事にしろ、なんの先入観もない本当の感覚を持ってらっしゃると思うので——、その人が最初に感じた感覚はもらって、大事にしていこうといつも思っています。」

幼い頃から別の地域から来る転校生が好きだったと話す酒井さん。自分とは全く違う文化や感覚を持ち、1人来るだけでガラっと雰囲気が変わる——そんなワクワクを、今でも外部から訪れる人に持ち続けているんだとか。

冬に向けて暮らすリズム

——「冬がすごく長くて、冬の生活をするために一年を過ごしてるってすごい感じるんですよ。——冬の準備をしたり、野菜を育てて保存したり、冬に向けて暮らすリズムっていうのがあって。それがやっぱり奥会津らしさっていう風に感じます。」

奥会津には、自然との調和を求めてやってくる移住者もいる一方で、元々この地域に住む人は、自分が快適に過ごすためごく当たり前に、自然のリズムに合わせて生活を営んでいます。奥会津の暮らしに特別なものはなく、その暮らし自体が自然そのものとも言えます。

——「只見線に乗って東京とかに行って戻ってきた時にすごく空間が広いんですよ——。東京とかだと歩くスピードから曲がるところまで全て決められているんですけど、私たちが只見とかで暮らしていると、歩いていて突然立ち止まっても——、突然ジャンプしたとしても誰にも迷惑かからないし——。誰のものでもない公共の自由な空間があるっていうのが、奥会津の誇れるものだと思っています。」

外に出て、違いを知る

——「自分が小学校中学校の時に只見の中で、あんまり自分の地域を知るっていう機会がなかったんですけど——。只見のことを知るとか、奥会津のことを知るっていうのは、今の子どもたちや若い世代の人達は随分と時間をかけてやってるなという気がします。」

そうして地域の良い所を認識してくれるのも嬉しい反面、「あまりに良い所と認識して居心地がいいと、外に出るチャンスを逃してしまうかもしれない」と、酒井さんはそんな不安も抱いているそうです。

——「ぜひ外にも目を向けて、その上で地域のために何ができるかっていう所まで考えてくれるようになって欲しいなって——。」

今の高校生世代までに向けては、外に出て違いを知り、只見だったら——という応用力を身につけて欲しいと。そして、20代、30代の人に向けてはいろいろな失敗をして欲しい、失敗を上の世代の人がフォローし、励ましてくれるはずだから——と。

取材:2021年12月
動画では、ここで紹介した以外にも、学生時代のエピソードやUターンしてからの仕事や考え方など、さらに詳しいインタビューも収録。ぜひご覧ください。
play