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「不自由さ」を楽しむ

こしゃえる
Misawa Ryuta
会津坂下町出身。工房「こしゃえる」代表。
三島町で山ブドウやマタタビを用いた編み組製品の製作を行う

全国でも有数の豪雪地帯「奥会津」——。

雪国特有の生活文化が育まれてきた奥会津・三島町では、山間部で採取されるヒロロ、山ブドウやマタタビなどの植物を素材とした伝統工芸「奥会津編み組細工」が積雪期の手仕事として伝承されてきました。

自分でも作りたいという衝動にかられた
「奥会津編み組細工」

会津坂下町出身の三澤さんは、もともとものづくりに興味があり、小さい頃から色々なものを作ってみたりしていたそう。三島町の編み組細工に興味をもったきっかけについてこのように話す。

「母親が山ブドウのカバンが欲しいということで、三島町のある方のところへ買いに行ったんです。そしたらその方に『試しにストラップ作ってみろ』『ストラップ作れたんだからカバンも作れるぞ』と言われ、母親が自分のカバンを作り始め、それを見せてもらったのが始まりなんです」

購入するつもりが、自分で山ブドウ細工を作ることになった三澤さんのお母さん。このことをきっかけに、編み組細工に興味を持ち、編み組細工を作る仕事につきたいと感じ始め、背中を押される形で三島町に住むことを決意。

「良いものを直しながらずっと長く使っていけるっていうところにすごく魅力を感じて、自分も作りたいという衝動にかられました。僕も教えて欲しかったんですけど、『まずは三島町に住んで、他の仕事をしながらでも教えられるから』と言われて、移住を決意しました。」

三澤さんは、今までのスキルを活かせる情報発信の分野で三島町地域おこし協力隊に採用され、移住することとなります。しかし、仕事をやりながら編み組細工に取り組むのは簡単ではなかったと話します。

「年間を通して編み組細工をやりたいっていう意思があったので、材料採取の時期とか、なかなか思うように動けない部分がありました」

本腰を入れて編み組細工に取り組みたいという気持ちが強かったと三澤さんは話す。

無ければ作ってしまおうという考えが
発想を豊かにする

「奥会津とか山奥に住むと『不便だよね』って言われるんですけど、僕自身はそんなに不便さをあんまり感じてなくて——」

三島町に住んで4年が過ぎた三澤さんは、奥会津の印象をこう語る。

「コンビニもなく不便と言われるけど、あまり不便だと感じていないです。そもそも今の時代で言うとネットとかでも、なんか欲しいなと思ったら買い物はすぐできる時代だし、なければ自分で作っちゃえばいいかなと思う。

足りないものや、こうあったらいいのになっていうものも、自分でなんとかするように意識が変わっていきましたね」

編み組細工に興味を持ったのも、良いものを直しながらずっと長く使えるところに魅力を感じた三澤さん。生活環境に合わせることで奥会津の暮らしに馴染めることができたそう。

「編み組をやる上で、材料を自分で調達しに山に行きます。年間を通した暮らしの中で、自分でできる部分は全部やるようにしています」

地域にまぜてもらえる嬉しさを感じている

雪深い奥会津において除雪は避けては通れないが、「自分にとってはプラス」と話す。

「ずっと編み組細工をやる上で家の中にいる機会が多いので、体を動かすのに雪かたしって結構運動になりますよね。外に出ると近所の人たちとも会うので、そういうところでコミュニケーションが取れるので、自分にとってはありがたいです。

人足や行事に参加させてもらう機会が多くて、まぜてもらえるっていうのは、地域に自分も認めてもらい始めたのかなっていうのがすごく嬉しく思いますし、自分が地域の力になれているのを実感します」

不慣れな部分があっても、周りの方に教えてもらう機会が多いため、「毎日がすごく勉強になる」と話す三澤さん。地域の方と協力していくことの素晴らしさを語ってくれました。

不自由さを楽しめるような新しい発見をしてほしい

自然のものを扱う三澤さんにとって、奥会津の四季は特別に感じるという。

「奥会津らしさと言えば、自然に囲まれて生活をするっていうことだと思うんです。四季の流れとともに生活が成り立っているんだなと感じます。

山に行く機会が多いので、春は山菜の季節、夏は材料採取で秋は紅葉がすごくきれいです。冬はもちろん編み組に本腰を入れるので、僕自身も自然の恵みを受けて生活をしている、生かされていると感じますね」

三澤さんは、幸せの価値観についてもこう続ける。

「決して整った環境ではないところから自分で一からやるというのは、どうしても『不自由』なのかもしれないですけど、その不自由の中でも楽しさをどこに見出せるかが大事かなと思います。

キャンプのように自分で水を汲んだり、火を起こしたりして、みんなで楽しく料理を囲んでワイワイお話しをすることが「不自由さを楽しむ」っていう部分だと思うんです。一からなにか作って自分で出来るようになって新しい発見が得られることが幸せですね」

伝統工芸士になり、技術を次の世代に残したい

三澤さんは、編み組工芸の現状について想いを語る。

「三島町の『奥会津編み組細工』を次の世代まで残していきたいと思っています。僕は山ブドウ細工をメインに制作していますが、材料が年々取れなくなってきているのも大きな課題です。自然の恵みを扱うのでより良いものを厳選し、長い時間をかけて制作することで、より愛着を持ってもらいたいと思っています。

「ゆくゆくは自分も『伝統工芸士』になって、次の世代に技術を残していきたいなと思っています。若い世代の人たちが一回離れたとしても、戻ってきたいな、また戻りたいなって思えるような基盤作りを自分もしていきたいなって思っています」

数百年、冬の生業として受け継がれてきた編み組細工。

「冬は好きだ。ものづくりができるから——。」

今も昔も変わらない技法と「生活工芸運動」の精神は、これからも次の世代に引き継がれていく。


動画では、ここで紹介した以外にもご自身の仕事の魅力や大切にされていること、奥会津の暮らしの好きなところなどさらに詳しいインタビューも収録。ぜひご覧ください。
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