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季節に合わせた
暮らしのリズムが宿る場所

見通りオートキャンプ場 代表
Hoshi Reiji
檜枝岐村出身、就職を機に上京し、都内の鉄道会社に勤務。Uターンを決意し、地域おこし協力隊を経て、見通りオートキャンプ場を事業承継。ユーザー本位のキャンプ場経営に取り組む

昔から変わらぬ四季のリズムに合わせた営み

星伶児さんは中学まで檜枝岐村で過ごし、スキーに打ち込むために山形県の高校へ進学した。その後、東京の大学に進み、都内で就職。4年前に地域おこし協力隊として檜枝岐村にUターンし、観光課でSNSを活用した広報などを担当したという。

「檜枝岐村の景色は季節とともに移り変わります。被写体となる景色が本当に豊富なんです。例えば、尾瀬であれば尾瀬沼や会津駒ケ岳、燧ケ岳などシンボルとなるような景観がある。毎日投稿するとなっても、困らないほどに日々異なる景色が撮影できます。

檜枝岐村はおそらく他の地域に比べると情報が少ないエリアだと思います。観光にいらっしゃるお客様へも意識して、『今日は雪が降っています』『気温が東京と檜枝岐村とではこれだけ違う』といったことも発信し、服装などの参考にしてもらいたいという思いもありました」

キャンプ場を事業継承し、自身ならではの視点で運営

2年間地域おこし協力隊で勤務した後、星さんはオートキャンプ場を事業継承する。「観光課に勤めていたので、事業の廃業や開業の情報は自然と入ってきます。このキャンプ場は立地的に利用しやすいですし、お客様がいらっしゃるだろうということは知っていたので、もし廃業するのであれば、譲っていただけませんかと言いに行ったんです」と語る。

元々はキャンプの趣味はないという星さん。しかし、「だからこそできる環境整備がある」と続ける。
「キャンプをしない自分が『これならば十分だ』と思えるような快適さにしておけば、キャンプ初心者の人も過ごしやすいですよね。例えば、トイレなどの綺麗さは、キャンプをしない僕が見て『これならばキャンプをしてもいいな』と思えるレベルになっていれば間違いがない。そうやって多くの人を受け入れられる環境づくりをしています」

星さんの運営するキャンプ場は、歩いて3分ほどの立地に温泉施設や釣り堀があるといった好立地。道の駅もすぐ近くにあり、安心感もある。

冬の時期はキャンプ場は閉鎖になるが、スキー場や高齢者の住宅の雪下ろしの仕事など仕事はたくさんあり、暇を感じる時間はないと星さんは語る。

自然から醸し出される空気を感じ取る「勘」を大切に生きる

奥会津での暮らしに大きな不便さは感じていないと語る星さん。東京での生活と比較して語ってくださった。
「東京にいれば、朝テレビで取り上げられていた店に昼には遊びに行くことができますよね。夜も食事に行く選択肢がたくさんあります。そういった生活ももちろん楽しかったです。檜枝岐村に住んでいたら、遊びに行くのだって事前に計画を立てておかなければいけません。食事も『夜は何食べよう?』と夜に思った段階ではもう遅い。そういった意味で、不便ではあります。しかし、僕の性格的には、そんなものは慣れてしまえば大きな問題ではないなと感じるんです」

「どこに重きを置くかの違いかもしれませんね」と星さんは言う。

星さんは奥会津の暮らしには季節に合わせた暮らしのリズムが宿っていると言う。奥会津に戻ってきて4年、そのペースに身をゆだねる心地よさをこう表現する。

「昔からこのあたりの人は、春になったら山菜を採り、魚釣りに出かけます。秋になると、キノコ採りに精を出す。自然の恵みが豊富なんです。そして、キノコを採り終わると、冬に備える支度が始まる。冬はパウダースノーが舞い、気温が低いのでさらさらの状態が長く続く。スキーで滑っていて雪が鳴るんです。奥会津には、そういった自然に合わせたリズムがある。暦を覚える必要もなく、季節のリズムを感じて生きていくことができる場所だと思います」

星さんはこの奥会津の自然の中での楽しみも満喫しているという。
「『今日は絶対、魚が釣れる!』とピンとくる日があるんです。そうした日には、何においても渓流に向かった方がいい。ここに暮らしていると、自然から醸し出される空気を感じ取れる『勘』を大切に生きていきたいと思うようになります」

家が雪に囲まれることで暖かさを感じることも

豪雪地帯で知られる奥会津。その中でも檜枝岐村はさらに雪が多い。雪の中での暮らしはどういったものなのだろう。
「雪が多くて大変な部分ももちろんありますが、雪で周囲が囲まれた方が風が直接家に当たらなくなるので暖かく感じることもあるんです。

それに、檜枝岐村の人々は雪と共に生きてきたので、道具も揃えていますし、除雪の仕方も効率的。例えば、『屋根の雪下ろしにしても玄関の方には落とさない方がいいよ。そちら側に落とすと結局もう1回片付けなければいけないから、反対側に落としてね』などアドバイスもあります。どこの家も雪を落とす方向が決まっているんです。そういうことを、一つ一つ覚えながら生活していけばいいのかなと思います」

人口500人ほどの檜枝岐村。この規模感だからこその人間関係があると星さんは語る。
「無限に人がいるわけではないので覚えやすいというのは利点ではないでしょうか。“どこの家の誰々さん”とすぐにわかる。どんな仕事をしている人だということもわかっているので、相談したいことがあったらすぐに聞きにいけます。そして、みんな丁寧に教えてくれるという特徴もあります」

長いスパンで住み続けることでわかることがある

高校から奥会津の地を離れ、そしてまたこの場所に戻ってきた星さん。だからこそ、ここで育つ子どもたちへの思いもあるという。

「奥会津の外に出る選択肢があるならば、そのチャンスを生かしてみるのも手だとは思います。日本の真ん中が東京であるとしたら、そういうのを一度は体感してみるのもよいかもしれません。また、興味のままに異なる都市や地域に行ってみるのも新たな発見があるでしょう。

檜枝岐村に戻ってきた人間としては、色々な経験をして吸収したことを、この場所で還元してほしいという希望はあります。そうした方々を受け入れる準備はできています」

奥会津の土地で生まれ育った星さんも、この土地についてまだまだ「初めて知ることも多い」と語る。土地のことを理解していくには時間がかかるものではないかと感じているという。

「僕は観光業を営んでいるので、その年ごとの雪の量や夏の暑さ、梅雨の長さなどで大きな影響があるはずです。キャンプ場をはじめて2年。まだまだわからないことがたくさんあります。

僕のような仕事でなかったとしても、移住して1年やそこらで戻ってしまうのは寂しいですし、長いスパンで腰を据えてその土地に住んでもらった方が本当の姿がわかってくると思います。また、何かスキルがあるとどこに行っても生活しやすいのではないでしょうか」

キャンプ場に火が灯る。静寂の中では、木の葉の擦れ合い、炎が弾ける音だけが響いていく。見渡す限りの山々に囲まれながら、キャンプに訪れた人々はこの贅沢な静けさを堪能する。奥会津の季節に合わせて、静かに時は流れていく。



動画では、ここで紹介した以外にもご自身の仕事の魅力や大切にされていること、奥会津の暮らしの好きなところなどさらに詳しいインタビューも収録。ぜひご覧ください。
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