loader image
Close
file19

地域の潤滑油として
受け継がれてきた林業を守る

合同会社SCOP 代表
Matsuzawa Shun
北海道出身、学生時代の恩師から頂いたご縁により、縁もゆかりもなかった南会津町へ「0日移住」。NPO法人みなみあいづ森林ネットワーク事務局長を経て、合同会社SCOPを設立。森林経営コンサルタントとして、多様な森林活用による地域活性化事業に取り組む

奥会津の木々を地域内外へと届ける潤滑油となる

北海道出身の松澤瞬さんは奥会津に移住して10年となる。森林経営コンサルタントとして、企業や自治体へ地域の森林の活用や木材を使った空間利用の提案を行う。建築や家具、雑貨としての活用や、森の整備による生態系の保護など、その仕事の幅は広い。ランドスケープとして、自然を守っていくことも松澤さんの仕事だ。まさに木々のスペシャリストといえる。

松澤さんはなぜこの奥会津の土地で活動するに至ったのだろう。
「大学時代の恩師が『フットワークが軽く、いきなり移住しても地域に溶け込めるような若者』を探していて、僕が声を掛けられたんです。『興味はあるか』と尋ねられて、『楽しそうだな』というくらいの軽い気持ちで奥会津に来ました。大学時代は地域に根ざした野外教育を研究テーマにしていたので、地域活動にもとても興味がありました。

移住して1年は、筑波大学の研究室に入り、奥会津と筑波の2拠点居住をしていました。その生活も楽しかったのですが、徐々に奥会津での地域を活性化していくような取り組みが楽しくなっていきます。NPO法人みなみあいづ森林ネットワークの立ち上げメンバーとして声をかけられたことをきっかけに、奥会津の森林を活かす活動一本に打ち込んでいくことに決めました」

春夏秋冬を五感すべてで感じられる

松澤さんはどのように奥会津での暮らしを営んでいるのだろう。
「ここでは特に生活には困らないんです。むしろ、生活するにはすごく便利な場所だと思っています。僕は仕事でさまざまなところに行きますが、この南会津からは新幹線で東京駅まで行けますし、会津田島駅から浅草まで1本で出られます。福島空港へも1時間半程度で到着する。県内で最も暮らしやすいエリアかもしれないと思っています」

利便性もありながら、大いに自然に触れることができるという点は松澤さんにとって大きな魅力につながっている。
「奥会津は里山と一緒に生活してきた伝統や文化があります。だから、自然へアクセスするハードルがとても低い。この山と生活圏との距離感の近さは気に入っているポイントの一つです。自然の中での遊び場が非常に豊富で、心から楽しめます」

さらに、奥会津では四季がはっきりしていて、その移り変わりを五感で感じられると松澤さんは語る。
「春夏秋冬を目でも耳でも鼻でも肌でも感じられる。四季がこれだけはっきりしている場所は、そうないのではないかと思います」

奥会津に息づく伝統文化にも心奪われると松澤さんは続ける。移住してはじめて知るさまざまな行事があったのだ。
「サイノカミや盆踊りなど、地域の方々はこの土地で連綿と続いてきた伝統をすごく大事にしていると感じます。しかも、ただのイベントごとではなく、この土地の文化として誇りを持って残していこうとする意志を持っているんです」

奥会津のポテンシャルを地域の外に伝えていく

林業が盛んに行われてきた歴史もある奥会津。「地域の大工のなかには木の特性を見極めて、伝統技法を使える方々が多くいらっしゃいます」と松澤さんは言う。
「後継者がいないといった問題を口にすることはありますが、みなさん今もしっかりと奥会津で受け継がれてきた技術を守ろうとしており、実際に守っている。これは本当に素晴らしいことです」

「0日移住」で奥会津に来た松澤さん。「移住の例としてはあんまり参考になりませんよね」と笑う。この場所で生活する中で、少しずつ自分が地域にいる意義が更新されていったという。
「林業と一口で言っても、その業種は幅広く、行政と民間や民間同士でも、なかなかうまくコミュニケーションを取ることができないことは多いんです。僕の現在の存在意義は、両者のハブとなり、潤滑油としてのポジションを担うことなのではないかと感じています。僕がコンサルタントとして地域に根を張って頑張ることで、受け継がれてきた林業を守ることにつながれば、と考えています」

松澤さんは奥会津内だけでなく、外の地域をも見据えている。
「この地域の中だけでとどまるのではなく、奥会津のポテンシャルや培ってきた歴史を外に向けても発信していきたいと考えています。

地域の外とつながっていくことで、他のエリアの地場産業活性化の参考にしてもらうことができるかもしれませんし、奥会津の魅力を再評価していくことにもつながっていくと考えています。外のエリアからの評価を奥会津の方々が実感して、やる気を出したり気運が高まったりしたら、地域をさらによい方向に進めていく力になるはずです。そうした動きを起こしていくことが、僕の役割の一つなのではないかと思っています」

若者の「地域への思い」を醸成する

次世代を担う子どもたちに対して、一度は外の環境を体験してみることも重要かもしれないと松澤さんは語る。
「どんどん外に出て、いろいろな体験をして、いろいろな関係性を作って、地域に還元してほしいと思います。外から見ることで、改めて奥会津の良さに気づくこともあるでしょう」

松澤さんは若者たちが地域をつくっていく文化はすでに奥会津には根付いていると感じている。
「こちらに移住して、南会津の盆踊りの文化にすごく感銘を受けました。20歳になると、地域の盆踊りで大役を担うんです。設営から運営寄付金集めまで全てを20歳の若者が行います。この地域に役割があることに対して、すごくみんな楽しそうで、真摯に取り組んでいます。

さらに、年下の子たちは、20歳の地域の先輩たちの姿を見て『私たちもあんなふうになりたい』と思っていくようになる。すごくいい循環が生まれています。こうした文化は今後も大切にしていきたいと思っています」

こうした次世代の思いを醸成できるような環境を作っていくことが大人の役割として重要であると松澤さんは言う。
「若者たちの地域に対する感情を育めるような環境や機会を作っていくことが大人の使命ではないかと思っています。そのためには、『この地域はダメだ』『不便だ』というのではなく、大人たちが地域を楽しそうに語れるようになることが大事なのではないかと思います。子どもは大人の影響をすごく受けるものですからね。僕は『戻ってきなさい』とおこがましいことはいえませんが、大人の一人として戻ってきたくなるような地域を作っていきたいと思っています」

今年も成人の時を迎える若者たちが町をあげた盆踊りに向けて準備を進める。松澤さんはその姿を頼もしく見守る。「子どもたちの笑い声がいつまでも響くような地域にしていきたい」、そう松澤さんは語った。
動画では、ここで紹介した以外にもご自身の仕事の魅力や大切にされていること、奥会津の暮らしの好きなところなどさらに詳しいインタビューも収録。ぜひご覧ください。
play