loader image
Close
file18

生きている実感を得られる

株式会社一十八日 マネージャー
Odaira Tomoko
南会津町出身、進学を機に上京し、エステ業界へ。エッセンシャルオイルの製造・販売を手掛ける株式会社一十八日 (じゅうはちにち)との出会いを機にUターン。拠点マネージャーとして、商品の製造・管理やECサイト運営、ワークショップなど手掛ける

豊かな森から生まれた香りを届けたい

エッセンシャルオイルの製造・販売を手掛ける株式会社一十八日 (じゅうはちにち)との出会いを機に奥会津にUターンした小平智子さん。出身は奥会津の只見町で、若い頃は都会に憧れて福島市や首都圏に住んだという。

上京後は、エステティシャンとしてさまざまなエッセンシャルオイル(精油)を扱った。その中で、日本精油の素晴らしさも感じたという。

「20年程前にアロマテラピーの文化がイギリスから入ってきましたが、今のところ9割ほどの精油が外国産です。近年、アロマテラピーが日本に定着してきている中で、日本の和精油にも非常に注目が集まっています。和精油はどこかで嗅いだことがあるような、懐かしい、馴染みのある香りが魅力的なのです」

奥会津の植物を使った和精油の魅力を伝えたい

「奥会津の木を使って和精油を作っている人たちがいると知った時から、居ても立ってもいられなくなった」と語る小平さん。

「自分の地元の植物を使って和精油を作れるならば、私も使う側から作る側になってみたいと思いました。それをきっかけに、3年前にこの奥会津に戻ってきました」

一十八日では、和精油の魅力をふんだんに詰め込んだ製品の開発を行い、販売をしている。
「私たちの和精油は南会津の里山や森で採れたクロモジ、スギ、ニオイコブシといった樹木から作られています。他にも、ハッカやシソなど日本のハーブの香りを精油にしています」

小平さんは南会津の拠点でマネージャーとして、オンラインショップの対応や店舗の運営業務、「アロマに親しんでいただきたい」という思いをカタチにしたワークショップなどを実施する。

「奥会津の植物を使って和精油を作っているということを伝えたいと思い、小さなお子様向けに、アロマに親しんでもらうワークショップを実施しています。例えば、香りのスライムやアロマスプレー作りはとても人気なんです」

厳しい寒さが育む豊かな自然

「帰ってきた時は東京と比べて不便な部分があるかも」と思っていたが、実際にはそんなことはなかったと小平さんは言う。
「南会津は関東へのアクセスも充実していて、便利な場所だなと感じています。スーパーやホームセンターは近くにありますし、道は空いていて駐車場も広い。東京では世田谷の外れに住んでいたのですが、もしかしたらその頃よりも今の方が便利ですし、生活がすごく楽になったのかもしれないと思っています」

便利さの一方で、奥会津での暮らしは、自然の厳しさとも隣り合わせであるとも感じているという。
「今、広い一軒家を借りて住んでいて、とても快適です。こんな広々と住めるのは都会では考えられませんよね。ただ、夏には草が生い茂るので草刈りに追われますし、雪かきも大変です。2月の寒い日に、朝お風呂に入ろうと思ったら頭上からパリパリパリパリという音が聞こえて、見上げるとなんと氷柱ができていたんです……!」

しかし、和精油を追い求めて奥会津へと戻った小平さんは、「私たちが作っているアロマのクロモジは、この寒さや雪深さがあるからこそ、素晴らしい香りになっていくんです」と目を細める。

「南会津町では町の面積の約92パーセントが森林で覆われています。しかも、日本ならではの里山が多様な植物を育みました。かつて、林業が盛んだった南会津では伐採後に、スギやアカマツを植えたのですが、そのはざまからクロモジやニオイコブシが生えてきています。この地域だからこそ取れる植物の恩恵を受け、アロマを作ることができています」

呼吸ができ、生きている実感を得られる地

「都会での暮らしも楽しかったんですが……」と小平さんは振り返る。
「東京に住んでいた時は、気がついたら1ヶ月、2ヶ月、土を見ないこともありました。忙しくて、空を見上げることも少なかったです。とにかく時間に追われて、必死に生きており、人もたくさんいますし、街並みも美しいですが、どこか心は乾いているような状態でした」

3年前に奥会津に戻り、「呼吸ができ、生きている実感を得られるようになった」と噛み締める。
「冬が大変な分、夏の晴れた日の夕方は本当に夕焼けが美しい。それから、朝の緑がとても鮮やかなんです。毎日移り変わる自然の中での暮らしを楽しむことができ、これはかけがえのない時間だと感じています」

そして、奥会津には移住者をあたたかく迎え入れる「人」の魅力も感じていると語ります。
「一緒に働いてる方やお仕事の関係で出会う方に移住者がとっても多いことに気が付いたんです。一十八日の南会津オフィススタッフは、3人が3人とも、IターンやUターン経験者です。決して、閉鎖的なことを感じることはなく、地域の方も自然と移住者をすんなりと受け入れてくださいます」

小平さんは奥会津の魅力を「人の暖かさと自然の豊かさによって、人間らしく生きられること。それに尽きる」と語る。

「大変な部分はいっぱいあります。自然の豊かさは、その厳しさと表裏一体です。その部分には覚悟しながらも、周りの方たちと助け合っていけば、すごく楽しく生きていける場所だと思います」

地域への誇りを胸に生きていく

小平さんは奥会津を訪れる人の言葉で、この土地の魅力を再認識することもあるという。
「奥会津の植物を使って精油を作ったアロマ蒸留体験ツアーを企画すると、たくさんのお客様が来てくださいます。その方々が、口々に『南会津に憧れてるんです』『こんなにいい香りのアロマがあるところに、ぜひ1度来てみたくて』とおっしゃってくれます」

奥会津を一度は離れた小平さん。子どもたちも思いがあるのならば、外に出る選択肢も良いのではないかと話す。
「私も一度首都圏に出たからこそ、奥会津の自然の豊かさや心の温かさを実感することができました。だから、どこかに行ってみたいという思いがあるならば、1度外に出ることも経験してみるとよいのではないでしょうか」

そして、「この奥会津という土地の誇りを胸に生きていってほしい」と願いを語る。奥会津が育む豊かな自然の香り。凛としながらも、人々の心を落ち着ける。奥会津からさまざまな土地へ、今日も森から生まれた香りが運ばれていく――。
動画では、ここで紹介した以外にもご自身の仕事の魅力や大切にされていること、奥会津の暮らしの好きなところなどさらに詳しいインタビューも収録。ぜひご覧ください。
play